「参った、降参だ……」 神殿の中でも名が知られる男が負けた。
 周りの人はシェイドに注目を向ける。
 シェイドは勝った。 だが、嬉しそうな表情を見せない。
「豪傑…… たいした事はないな」
 今のシェイドにとってはこの程度の人では取るに足りなかった。
 周りを見るが、この豪傑より強そうな奴はいない。
 席を蹴って、シェイドは神殿の外に出た。
 顔を上げて深呼吸をする。休む場所がないか辺りを見る。
 丁度、視界に木が入ったので、そこに近づいた。
 紅葉になりかかっており、落ち葉が散らばっている。
 その木に背を向け、腰をゆっくりと下ろした。
「ザコばかり。 俺が強いだけか」
 1人、ひっそりと木の前で愚痴をこぼす。
「あーぁ…… 退屈だ」
 そんなことを言っている間に、眠くなってきた。
 目が閉じかけ、頭が揺れ虚ろいできている。
「…………」
 風がシェイドの肌に触れる。 秋なのに、ほのかに暖かい。
 鳥のさえずりが聞こえてくる。 心地のいい声。
 彼は自然に触れ、苛立った気持ちも落ち着いてきた。
 その時、木の葉が揺れて音を立てたような気がした。
「何だっ!?」
 シェイドは体ごと振り返って、木を見上げる。
 しかし、何もない。 少し強い風が吹いただけだろうと思った。
 なので、体勢を先ほどの状態に戻そうとして振り返る。
 だが、そこには先ほどなかったものが目に映る。
「ふわぁ! な、なんだ!?」
 シェイドは思わず腰を抜かしてしまう。
 逆さまの顔が、目の前にあったからだった。
「リアクション、サイコーだぜ、アンタ!」
 男は逆立ちで気にぶら下がっている。
 シェイドの反応が良かったので、満足そうに笑った。
 口から鋭い牙(臼歯)が見える。 
「アンタ…… 何者だ?」
 逆さまでぶら下がっている男に、恐る恐る問う。
 シュラムは足で捕まってた枝を軸にする。 
 前後で振って勢いをつけ、後ろへ回った。
 そのまま、一気に飛び跳ねる。 その体勢で地面に着地した。
 そして、顔をあげ、シェイドのほうを向く。
「オイラ? オイラはシュラムだ。 いい名前だろぉ?」
 シュラムは自慢げに名乗った。
「シュラムって……」
 シェイドは思い当たる節があるが、信じられなかった。
「どうした? 具合でも悪いのか?」
「いや、何でアンタがこの神殿と同じ名前なんだ?」
「あぁ、そんなこんか。 オイラ、ここの守神だからな」
 シュラムは平然とした顔で答えた。
 それを聞いた、シェイドは目を丸くした。
「疑ってんのか!?」
「疑うも何も、信じろというほうが難しいだろ」
 シェイドは信じられないという顔をしながら言った。
「それじゃオイラとろうじゃないか? それで見極めなよ」
「よし、わかった。 神なら相手に不足無しだ」
 2人は身構え、シェイドとシュラムが腰の剣を抜き、互いに飛び掛る。
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