ムート川の戦い


「お待ちください、シェイド様!」
 慌てて先ほどの伝令がやってくる。
 その後ろには大勢の兵がいた。
「ん、どうした?」
「兵無しにどちらに向かわれるのです」
「そうだ。 今から戦場に出るんだったな」
 単身で戦うつもりだったのか、我に返って気づいた。
「何を考えてたの旦那。 単身で戦うわけじゃないんだよ」
 ガストはシェイドを嘲笑う。
 しかし、人のことを言えたものではない。
「そういうお前だって、俺の後についてきただけだろ」
 シェイドは言葉をそっくりそのまま返した。
「あの、戦争は遊びではないんです。 彼らも命を……」
 緊張感のない2人に、呆れそうになった伝令。
「分かっている、無駄に命は落とさせたりしない」
「それを聞いて安心しました。 では、頼みましたぞ」
 伝令は2万5千という大群の兵を置いていく。
 そうして、その場を去っていった。
「にしても、スゴイ数だ。 コレが戦争か」
 2万5千の兵に驚きの顔を見せるシェイド。
 辺り一帯が、人で埋まりそうな数。
「よし、行くぞ」
 兵を連れ、行進を始める2人。
 敵の気配を気にしつつ前に進む。

 しばらく経ったところで、川が見えてきた。
 流れは緩いが、ウッカリすれば流される。
「どうやら、敵さんがお待ちかねみたいだぜ旦那」
 ガストは敵の気配を感じ取った。
「このムート川を渡らせんぞ、フリート共!」
 川の向こう岸で、2人の将が待っていた。
 数百兵の兵が、シェイド側に向けて構えている。
 そこから開戦、矢が雨あられが如く飛んでくる。
「確かにいたな。 だが、俺には勝てん!」
 相手は300の兵、圧倒的にこちらが有利。
 しかし、シェイドは単身攻め入る。
「あ、危ないって旦那! よし、お前たちも行け!」
 敵も味方も死にたくない。 
 情け無用に武器を振るう兵たち。
「とりやぁぁ!!」
 シェイドは一振りで何十人もを吹き飛ばす。
 ガストも負けじと攻め入り、兵力を奪った。
 フリート兵も敵兵をねじ伏せていく。
 戦場が真っ赤に染まった。
「ふっ、これが戦争か。 ザコだな」
 さらに矢を弾きながら、シェイドは川を進む。
 兵力差もあったが、彼の奮闘が多く勝利した。
 味方の兵の負傷者は数十人程度。
 そして、戦いは終盤を迎え、残すは2将のみ。
「き、貴様! なんて強いんだ」
「失せろ。 ザコ」
 シェイドはそういいながら、敵の将を1人討ち取った。
「う…… うわぁ! た、助けてくれ!!」
 もう1人は、仲間の死を直視し逃げようとする。
「悪いとは思わんぜ。 ここは戦場だ」
 ガストはその将に止めを刺した。
 その場で、2人の将が横たわった。
「……何とも、無残だな」
 自分が斬り捨てたとはいえ、哀んだ。
 これら全ては、同じ人なのだ。
「戦争だから、仕方ないんだよ旦那」
 ガストはそういいながらも、平気ではない。
「そうだな、これが戦だ」
 シェイドはそう言い聞かせ、うなずいた。
「川を渡った先、そこにシュナイドがあるぜ」
「そうか。 それで今もフィラが来てないということは……」
「別方向からの迎撃に向かってるかもしれないね」
「だな。 急ぐぞ!」
 兵たちを呼ぶと、ムート川を抜ける。
 そして、全速力で先に進んだ。

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