念願の初陣


 フィラにそのままついていき、案内してもらう。
 それから数時間が過ぎた。 外もだいぶ暗くなった。
「そして、ここが貴様達の部屋だ」
 フィラに案内され部屋の扉の前まで来ている。
「何かあっというまで、分からなかったな」
 シェイドはあまり覚えていない様子。
 結局のところ、意味の無い案内をしたフィラ。
 フィラの顔が若干引きつったが、元に戻る。
「ま、慣れれば大丈夫だ。 訓練所の記憶だけあればいい」
「ここから真直ぐのところだろ?」
 それだけは覚えていたシェイド。
 戦いに関係するものだけは、頭に残っていた。
「そうだ。 そして明日、お前たちも戦闘訓練に加える」
「さっそく、練習ってことか」
 シェイドは期待を胸に寄せていた。
 もっとも、1番期待しているのは本戦場であるが。
「ここは実力があれば立てる。 ……期待している」
 そういうとフィラは去っていった。
 とりあえず、2人は自分たちの部屋の扉を開けて中に入る。
 ベットが隣接して2つあり、シートに染みがある。 
 奥に窓があり、カーテンが掛かっている。
 床は古ぼけており、歩くだけで音がしそうな床。
「俺たちってあんま期待されてないのかな……」
 ガストはそれを見た瞬間、立ち止まった。
「出世すれば、もう少し良くなるだろ。 今は我慢しろ」
 シェイドは普通に中に入る。
 慣れた足つきで、今まで住んでいたようだ。
「それに住めば都ってヤツだ。 俺のいた所じゃ、普通だったぞ」
「そっか、そうなんだ」
 そうこういっている間にベッドに乗り、横になった。
「それより、ガスト。 よく受かったな」
「どういう意味だよ、旦那?」
 ガストは顔をしかめた。
「料理が美味かったのか知らんが、ケチャップまみれだろ?」
「いやいやいや」
 ガストは必死に首を振りながら否定する。
「あれね。 料理作るだけじゃなくて、その間、矢が飛んで来るんだよ」
「どういうことだ?」
「戦場に安全な場所が無いわけじゃん」
 ガストが話を進め、シェイドはうなずく。
「だから、その戦場で作れるかチェックするためにトラップがあるわけ」
「ふーむ、なるほどな」
 シェイドはようやく理解した。
「ま、かわした時ケチャップを浴びちゃったわけだぜよ」
「そうか…… 結構、大変な試験だったんだな」
 シェイドは少しだけガストを見直した。
「まあね」
 ガストはテレながら返した。
「あ…… それと、お前の過去も気になるんだが」
「そいつは、またいつか話すよ。 明日早いしね」
「それもそうだな。 寝るぞ」
 シェイドは掛け布団を引っ張るとそのまま寝る。
「おやす…… ってもう寝てるし」
 ガストはシェイドの寝つきの速さに驚いていた。
 すぐさま、ガストも掛け布団を掛け直す。
「んじゃ、これで俺もおやすみっと」
 そのまま眠りについた。

「起きろ!」
 シェイドが大声をあげる。
 カーテンは全開で、光が差し込んでいた。
 ガストはいつもの通り、まだ包まっている。
「いい加減、起きれるようになれ」
 シェイドは呆れて顔を抑える。
「もうちょっとだけ…… 寝かせて……」
 ガストは寝言で返事を返す。
 シェイドは頭にきて、ガストを布団に包んだまま持ち上げた。
 そのまま部屋から連れ出す。
 廊下を走って行き、訓練所まで辿り着いた。
「シェイド、ガスト。 来たか」
 そこにフィラが待っていた。
「ん、アンタしか見当たらないが?」
 だが、フィラ以外の姿がない。
「今は内政などで出かけている」
「そう…… なのか」
「……とりあえず、陣の張り方、陣形、策の書きしるした書物だ」
 フィラがとりだすと紙を束ねた本状のものを取り出す。
 シェイドはガストを布団ごと放り投げ、受け取る。
「イテテ…… ってここは?」
 ガストはようやく目覚めた。
「今から、それを読め、理解したら実践練習をする」
 そういうと、シェイドは開く。慌ててガストも駆け寄って見る。
 それから正味3時間が経過した。
「わかった」
 シェイドが呟く。 ガストはまだ理解していない様子。
「そうか、ならば実地に移す……」
 そこへ城壁を乗り越え、謎の男が現われた。
「曲者か!?」
 シェイドは警戒し、すぐさま剣に手を当てる。
 フィラが前に手をかざしシェイドを止める。
「いや、彼は我が軍の伝令兵だ。 それで、どうした?」
「それが、シュナイド王国の軍がこちらに接近している模様」
 伝令は冷静に話をする。
「何だと? あの国とは同盟中のハズ……」
 フィラの顔に焦りが出てきた。
「よし、慣れるより、慣れろだ。 俺たちが行く」
 シェイドは割って入る。
「バカを言うな! まだ実践訓練がない者に……」
「だが、今はどの将も留守なんだろ?」
 シェイドは居ても立っても居られない様子。
 だが、フィラの口から許可の了承は得られない。
「全て聞かせてもらったである」
 どこからともなく声が聞こえてきた。
「ジーク様!?」
 その姿をみて驚くフィラ。
 シェイドの後ろの通路にジークが立っていた。
「行くがいいである。 そなたらなら可能であろう」
「そうと決まれば、善は急げだ。 ガスト!」
 シェイドはガストの肩を叩くと、一気に走り出す。
「そうだぜ! 俺もイッチョカッコよく決めてやろうじゃないの」
 ガストもそれに釣られ、シェイドについて行く。
「待て、兵士を……」
 単身で出かけようとしている2人を止めようとしたが、
 姿が見えなくなってしまった。
「フィラ様、私が彼らに手配します」
 伝令が2人に兵を用意するという。
「頼んだ」
 フィラは伝令に任せた。
 さらにジークもフィラに命を下す。
「フィラ、お主は別方向から迎撃せよ」
「御意!」
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