験者の仕官


 ルスキニアを南下し、ミレイヤ宿の前を通る。
 そして、再びミストラル大橋まで来た。
「あの、この辺でいいです」
「ここで大丈夫か?」
「はい、どうもありがとうございました!」
 セレナはお辞儀をすると、そのまま去っていった。
 シェイドは名残惜しそうに彼女が見えなくなるまで見ている。
「あっち方面ってことはシュナイドだよな、多分」
 ガストはそういって、シェイドのほうを向く。
 しかし、ガストの言葉を聞いていないシェイド。
 見届けると同時に切り替えして歩いていく。
「って、旦那。 フリート王国の本城ってどこか分かってる?」
 ガストは慌ててシェイドに尋ねた。
 シェイドはようやく反応し返事をする。
「ダーフェリア区域だろ? ルスキニアから真南の」
「知ってるならいいんだ。 それじゃ行こうぜ!」
 ダーフェリアに向けて歩き出した。
 山が多いため、山を切り開いた狭い通路を通る。
 急な坂や激しい山道を進んでいった。
 長い道のりを経て、フリート城へと辿り着く。
「……ここが本城か」
 その城は目の前にすると、かなり大きい。
 城壁は白い壁、レンガを積んだような雰囲気。
 そこに窓が連続して見える。 屋根は蒼くて三角形。
 塔のように出っ張っているところもあり、天辺は尖っている。
 2人はそれを見上げると、城の入口へと向かった。
 そこには兵士が2人立っていた。
「止まれ。 我らが城に何用だ?」
「俺たちは仕官しに来た、お取次ぎ願いたい」
「なるほど、わかった。待っておれ!」
 1人の兵士が城の中へと入っていった。
 そして、数刻過ぎると兵士が出てきた。
「お目通りできるそうだ、参れ」
 そういうと、2人は兵士についていく。
 城内を歩き、国王のいる部屋についた。
 目の前には貫禄のある男が王座にいる。
 男は髭を生やし、タキシードのような服を着ていた。
 さらに、右側に羽のついた、帽子を被っている。
 シェイドは辺りを見渡すが、男以外の姿はどこにもない。
 それを確認すると、2人は男の近くまで歩いた。
「我はジーク。 このフリート国の創設者である」
「俺の名はシェイド。 そして、コイツはガストだ」
 シェイドは相手が王であろうと敬意を払わず話した。
 ガストは正反対で震えが止まらない様子。
「ど、どうも…… お目に掛かれてこ、光栄です」
 3人の紹介が終わると、ジーク王は立ち上がった。
「まずは小手調べをさせてもらう」
 ジークが指を鳴らす。
 それと同時に、シェイドの下の床が開く。
 瞬く間に、シェイドは落下していった。
 ガストは一瞬のことで何が起きたか分からなかった。
「だ、旦那!?」
 穴を見下げて叫ぶガスト。
 だが、シェイドからの返事が無い。
 すぐさま、ジークの顔を睨み付けた。
「案ずるな。 下で入官テストを行うのみである」
「そ、それならよかった……」
 ここに来て、いきなり殺されたのかと思ったガスト。
 無事と聞いて、ほっと息をついた。
「そなたは…… 籠手使いであるな?」
「そうですが何か……?」
 それを聞くと、再び指を鳴らした。
 ガストの床は、瞬く間にスライドする。
 そのまま、別の部屋へと連れられていった。

「……ここは?」
 シェイドが目を開ける。
 辺りは薄暗く、足元が冷たい。
「そうか、さっき落とされて……」
 床や壁には多くの武器傷が残っていた。
 ここで、多数の戦闘があったようだ。
 血がにじんだような跡もある。
 振り返ると目の前に人が立っている。
 大剣を手に持っており、シェイドのほうを見ている。
「私はフィラ。 剣を抜いて構えろ」
 フィラは大剣の先をシェイドに向ける。
 そして、虎のような目でシェイドを睨んだ。
 シェイドも音を立てずに剣を抜いて構える。
「いざ!」
 一気に飛び掛り、その者に斬りかかる。
 しかし、大剣で防がれ押し返される。
「その程度か? ならばこちらの番だ」
 フィラは剣を大振りで真空刃を起こす。
 シェイドは直ぐに反応し、かわした。
 刃は鉄を砕くような音をたてる。 
 振り返って、漠然としたシェイド。
「かわしたか。 まずは合格だな」
 フィラは笑って言った。
 シェイドも何かを悟ったかのように笑みを浮かべる。
 先ほどフィラがやったように力強く剣を振った。
「そんな真似で出来るものか」
 フィラは不可能だと思って、甘く見ていた。
 しかし、シェイドの剣から真空刃が飛び出す。
 しかもフィラのとは違い、小さいが数発の刃だ。
「何だと…… ちっ!!」
 フィラは不意を受け、とっさに大剣で受け止める。
 シェイドはその隙に背後に回る。
 そして、背後から跳ね上がって斬りかかった。
 フィラは振り返り、すぐさま大剣で防ごうとする。
 だが、それはフェイントだった。
 シェイドは急落下と同時にしゃがみ、剣背で足払いを掛ける。
 体制を崩し倒れこむフィラ。 シェイドは剣の先を顔に向ける。
「決まった。 俺の勝ちだな」
 真剣な眼差しでフィラを見るシェイド。
 フィラの手をつかんで起こした。
「華奢の割りに中々の腕なのだな」
 フィラはシェイドが出した技に感服した。
 なぜなら、大剣は重く、それを利用し力を入れれば出せる。
 だが、通常の剣は軽く己の力のみで出すからだ。
「名は何という?」
 唐突で聞き忘れていたフィラ。
 戦闘が終わり、改めて聞いた。
「俺はシェイドだ」
「シェイド…… シェイドか。 これから、よろしく頼む」
 フィラは名前を聞いた時、戸惑ったように見えた。
 シェイドは細かい動揺に気づいていない。
「というか、アンタは何者なんだ?」
「私か? 私はここに仕えている者だ」
 そうこう話していると2人がいる床が急に動く。
 大きな音を立て、垂直に持ち上がっていった。
 シェイドの落下した穴を、再び通っていく。
 そして、ジークの部屋へと戻った。
「どうやら…… 終わったようであるな?」
 前にはジークが立っている。 隣にガストもいた。
 ガストが突然シェイドに泣きついてくる。
「よかった…… よかったよ旦那! 生きてて……」
 ガストは顔をにじませながら喜んだ。
 しかし、全身が赤い。 多量の怪我に見える。
「おいッ! お前こそ大丈夫か!?」
 シェイドは慌ててガストの体を触る。
 触れた手も真っ赤になり、それを見て更に動揺する。
「何いってんの? これはケチャップだよ?」
 ガストは痛くも無い。
 シェイドは耳を疑った。 その後、指でなめてみた。
 それはまさしく、トマトから作った普通のケチャップだった。
「料理試験のお題がオムライスだったからさ」
「何でお前が料理なんだ? 謎だろ?」
 今一歩、理解が出来ず首を傾げるシェイド。
「コックは腕を使うだろ? それは籠手使いにも応用できるのさ」
「なるほど…… そういうものなのか」
 シェイドはそんな経緯もあるのかと感心した。
「まっ、籠手使いは、大体そうだからさ」
 ガストは笑いながら答える。
 そこに、ジークが口を挟んだ。
「そなたら、話は終わったであるか?」
「終わった。 それで、俺は? 後、ガストは?」
 慌てて、本題を忘れていたシェイド。
 片がついたところで、聞きなおした。
「フィラ、そなたはどう思ったであるか」
 シェイドと戦ったフィラに訊ねた。
 フィラは迷わず答える。
「シェイド…… 態度を除いて悪くないと思います」
「そうか。 よし、シェイド合格とする。 並び、ガストもである」
 ジークは2人を正式に認めた。
 そして、ジークはフィラに指示を出す。
「2人と城内や庭の案内をするがいいである」
「了解、御用があれば戻りますので」
 そういうとジークから離れ、扉に向かう。
 再び振り返り、2人を見た。
「お前たち、早く来い」
 手招きをして呼んでいる。
 2人はフィラの後まで走り、部屋を出る。 
 そのまま、フィラについていった。
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