未来への一歩


 力が反発し合い、後方へと足が滑り込む。
 アルトは再び大剣を持ち上げ体制を整える。
 しかし、その隙に剣の軽いシェイドが跳ね、真上から落下。
 すばやく、大剣を両手で持って防ぐアルト。
 アルトはそのまま押し出し、シェイドを薙ぎ払う。
 その後、続けて走りこんでいく。
「もらったッ!!」
 落下中を狙って大剣を一気に振るうアルト。
 シェイドは宙でバク転をし、それを交わす。
 アルトは、さらに落下地点へ追撃をかけた。
 だが、手ごたえが無い。 残像を斬っていたのだ。
 気配が消え、姿も見当たらなくなる。
 じっとその場で止まって耳を澄ます。
 すると風の音ともに、かすかな音が聞こえた。
「そこかッ!」
 後ろめがけて大剣を大振りに振るう。
 すれすれの所を、シェイドは屈んでかわす。
 そして、下から大剣をなぎ払われる。
 わずかな差でシェイドが勝利した。
「俺…… 勝っちゃいましたね」
 驚きと嬉しさが入り混じった心境のシェイド。
 アルトの目を見ながらそう言った。
 何も無かったかのように鞘に収める。
 アルトは負けたことが相当悔しかったのか、
 うつむいたまま剣を拾いに向かった。
 拾って背中の鞘に収めると、再びシェイドの前に来る。
「お前に負けるとは夢にも思わん勝ったぞ」
 今回も自分が勝つと思っていたのか皮肉を言う。
 だが、弟的な存在であるシェイドの成長に喜びもあった。
「てめぇが強くなったのは、シュラム様のおかげか?」
 アルトは何気なく口にする。
「え、何で知ってるんですか!?」
「やはりな。 恐らく、てめぇの素質を見込んだんだろう」
「先輩も会ったことがあるんですか?」
「まあな。 会った時から、互角に渡り合ってたけどな」
 あくまで自分が強かったことを主張するアルト。
 しかし、シェイドが水を注すように返す。
「でも、今、俺に負けましたよね」
「このやろ! 生意気、言いやがって……」
 アルトはシェイドの頬をつねった。
 シェイドも仕返しにアルトの頬をつねる。
 2人はまるで子供の戯れ合いのようだった。
 しばらく、そんなこんなで時間が過ぎる。
「よし…… 部屋に戻るか」
「ですね。 体もだいぶ冷えてきましたし」
 そういうと振り返り、走って扉に向かった。
 さっと開けて入り、玄関前の廊下に出る。
 扉を閉めると、向かって左に進む。
 L字を曲がって、食堂へ入る。
「あ、旦那お帰り。 もう決着ついたの?」
 ガストがすぐに2人に気づく。
 そして、2人に汗拭き用タオルを渡す。
「かしらと坊主、どっちが勝ったんすか?」
 横からアルトの子分も近寄ってくる。
 久しぶりに出会った2人の対決は興味深いようだ。
「今回は、オイの負けだ今回はな」
 アルトは今回を強調しながら答えた。
 次は勝つつもりのようで、鼻息が荒くなっている。
「次も俺が勝ちますよ!」
 シェイドは鼻を高くして答えた。
 それを聞くと、アルトは額を渋らす。
「次からはオイの全勝に決まってんだろ」
 アルトは負けじと言い返した。
 ふと、何かの拍子に思い出したのか真剣な顔に戻る。
「シェイド、そこに座れ。 他の奴らはどちらでもいい」
 シェイドは言われるがまま席に着く。
 アルトもシェイドの前に座る。
 ガストとセレナが残り、他の人は席を外した。
「シェイド。 仕官先はどうする?」
「仕官ですか……?」
 正式に軍の一員として認めてもらう。
 自分にもその時が来たことを思い出した。
「フリート王国、シュナイド王国、ファブニル帝国の3国あるが……」
「じゃ、フリートにします!」
 思い立ったように返す。
「あっさり決めるんだな……」
 アルトは少しだけ意味ありげな顔をする。
 だが、それ以上は言わなかった。
「んじゃ、旦那が行くなら俺もそこいこっかな!」
 ガストもそろそろ自分の身を固めるためシェイドと共にする。
 セレナが浮かない顔をしていた。
「どうしたの、セレナちゃん?」
「い、いえ。 何でもないです」
「そっか、旦那と分かれるのが辛いんだな?」
「……」
「ガスト、聞くのはもうよせ。 言えない事情もあるだろうから」
 途中でシェイドが止める。
 ガストはそれ以上、追求するのをやめた。
「寝室は廊下に出て左の突き当たり、そこに5部屋並んでいる」
 手としぐさを合わせて説明する。
「それで1番右側、つまり一番近い部屋を、てめぇたちが使ってくれ」
「わかりました。 それじゃ行くぞ」
 3人はそのまま、アルトに言われたとおりに進んだ。
 そして、部屋の中に入っていく。
 そこは木床にホコリひとつ無いほど掃除されている。
 ベットが左右の奥に2台づつある。 正面には窓があった。
「ベットの配置からすると俺と旦那で、セレナちゃんって感じか?」
「え、あ。 そうですね」
「あれれ、もしかして旦那の横がよかった?」
 ガストは冗談交じりに言った。
 セレナは顔を赤らめながら俯いた。
「バカを言うな。 男女が寄り添って寝るなどと……」
 シェイドは動揺を抑えようとして顔が引き攣っている。
「だよねぇ。 んじゃ寝ようか」
 ガストは予想通りの反応に怪しい笑みを浮かべた、
 その後、3人はベッドに寄って寝そべる。
 そして、ゆっくりと眠りについた。

 1晩が過ぎ、窓から光が射す。
 今日もまぶしく輝く朝日。 何をするにもいい日和。
 そこにアルトが入ってきた。
「おい、そろそろ出発の準備を……」
「俺なら済んでますよ。 彼女も」
 ガストがまだ、布団の中に渦こもっていた。
「おい、ガスト。 起きろ。 いつまで寝てんだ」
 シェイドがガストの体を揺らしながら言う。
「後、数刻ほど寝かせて……」
「起きろッ、蚊トンボ!」
 アルトは近づき、ガストの両足をつかむ。
 そのままジャイアントスイングを仕掛けた。
 そして、壁に向かって投げ飛ばし、水平に飛んでいく。
 顔面がぶつかり、落下した。
 物音は凄まじく、屋敷が揺れるほどだった。
 その時、シェイドとセレナは唖然としていた。
「かしら、何かあったんですか!?」
 数人いる子分たちが慌てて駆けつけてきた。
 その現場を見て彼らも唖然とした。
「かしら…… ちょっとやりすぎですよ!」
「そうか? これでも手加減したほうなんだが」
 アルトはこう言っているが、壁には顔型がつくほどのへこみ具合だ。
「旦那…… おはよう。 何か痛いんだけど」
 ガストの顔が腫れている。
 しかし、本人は気づいてない様子。
「ちょっと…… 今日出かけられるか?」
「戦いをするものなら、その位の傷は朝飯前だろ」
 アルトは真面目な顔して答える。
「そんなもんですかね……」
 シェイドはそれを無理に納得付けて終わらせた。
「何だか知んないけど、俺、早く行きたいんだよね!」
「よし、それじゃ行くか」
 シェイドがそういうと、アルトたちと共に玄関へと向かった。
 玄関の扉を開けて、トルアの森を抜ける。
 そして、その入り口までやってきた。
「ここでお別れですね」
 シェイドはここに来て少しだけ顔が沈んだ。
 やはり、別れはつらかったようだ。
「湿気た面すんなよ。 永遠の別れじゃねぇんだから」
 アルトはシェイドの頭をなでる。
 その手に元気を与えられた。
「ですよね…… それじゃ先輩もお元気で!」
 3人は手を振ると、アルトの下を後にした。
 
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