ルスキニアにて


 ルスキニアはこの宿からほぼ北に位置する。
 中でも、屋敷があるのは、その上方。
 途中は、登ったり下ったりの道があるが、そこを抜けていった。
 そして、彼らの前に森が見えてくる。
 木と木は密集されており、葉で覆い隠されていた。
 それは、まるで1つのドームにも見えるほどだ。
 中央に入口らしきところがあり、そこから道が広がっている。
 アルトは入口に差し掛かったところで立ち止まった。
「オイの館、トルアはこの道を抜けた先だ」
 振り返って、シェイドたちを見て言った。
 道は人工的に作られており、荒削りな斬り方がされている。
 まとめて斬ったような跡。 それを物語るきりかぶが残っていた。
「これ、誰が作ったんですか……?」
 シェイドもそこで立ち止まる。
 大体検討はついたが、念のため聞いてみた。
「見てのとおり、オイがブッタ斬って作った」
 アルトは顔色一つ変えずにそう言う。
 やはりと、シェイドがうなずいた。
 ガストとセレナは後ろで呆気に取られていた。
「おっと、レディがいるんだから、早くしねぇとな」
 アルトとシェイドは、どんどん奥へと歩いていく。
 所々、伸びた枝が横から出ている。
 それを、アルトは無言で切り崩していた。
 他の2人及び、子分との距離が開く。
「そういや、セレナちゃん。 ルスキニアで用があったんじゃ……?」
 ガストは思い出し、セレナに聞いた。
「……えっ。 あ……」
 セレナはその場で黙り込んでしまった。
 何も考えてなかったかのように動揺している。
「もしかして、嘘だったとか……?」
 ガストはゆっくりとセレナに聞いた。
「ごめんなさい、あの…… 口裏を合わせてしまって……」
 セレナは無我夢中に答えた。
 顔からは雨のような汗が出ていた。
 ガストは腕を組み、わかったようなうなずきをした。
「何で合わせたんだ?」
 前のほうにいたシェイドが戻ってきて、話に加わる。
「えっと…… わたしにもわからないというか……」
 セレナは唇がふるえ、辛そうに見えた。
 シェイドは追求をやめ、別のことを聞くことにする。
「家族とかは、どうなんだ? いいのか?」
「親なら大丈夫だと…… 思います」
 セレナは胸をなでおろし、冷静に戻って答えた。
「そうか。 だが何日もとなると心配だろ。 明日、俺が送ってやる」
 シェイドは何気なく言う。
 セレナはその言葉を聞き、嬉しそうな顔をした。
 アルトはシェイドの姿が見えなくなり振り返った。
「お似合いだねぇ……」
 2人を発見し、それを見て腕を組みしみじみとした。
 しかし、その顔に微妙な心境を表していた。
「あれっ、アルトさん。 いいんですか?」
 ガストはアルトの傍に寄って、小声で聞く。
「オイは…… いいんだ」
 アルトは声が小さくなりっていった。
「とにかく……! トルアに向かうから、もたもたすんな!」
 しかし、すぐに顔を上げて声を張り上げた。
 その声にあわせ、一同は一斉に歩き出す。
 そして、道なりに進んでいくと、館がようやく見えてきた。
「ここだ。 その建物がオイらの館」
 四角く削った木を積み上げて作った壁。 屋根は三角で木板。
 釘の一切使っていない、野生的なつくり。
 前からは分からないが、奥行きもあるようだ。
「よしっ、入るぞ」
 そういいながら、手で子分たちに指示を出す。
 子分たちは頭を下げて先に向かう。
 入口の扉を開けて入っていった。
「あれっ、あの人たちは……?」
 シェイドは不思議な顔して聞いた。
 その質問に、アルトが即座に答える。
「アイツらには支度をさせるのさ。 調理とかな」
 シェイドはそれを聞いて納得をし、うなずいた。
 しかし、そういうことができるのか、と不安が残った。
 その後、残った彼らも屋敷へと入っていく。
 玄関の先は、通路が右と左に分かていた。
「そこの扉の奥は何ですか?」
 正面にある扉に、シェイドは不思議と目に付く。
 それが、妙に気になったので聞いた。
「先はな。 中庭…… というか修行場だ」
「なるほど、そこで鍛えてるんですね」
「まあな。 それじゃ奥へ行くぞ」
 そこはスルーして、右の通路を通る。
 突き当たりまで、曲がる場所なく真っ直ぐ廊下が続く。
 左に行って真っ直ぐ進んでいくと、左側に部屋の扉があった。
「ここの先が、食堂だ。 奥は後でな」
 アルトが扉に手を掛け、軽く開ける。
 そこには、先ほどまで一緒だった子分たちの姿があった。
 部屋には、キッチンらしきものがあり、調理器具もある。
 真ん中には大きなテーブルがあり、そこを囲ってイスもある。
 子分たちは、5人手分けをして料理を作っている。
「今夜は何だ?」
 アルトが1人の子分に迫って聞く。
「へいっ、目玉焼きに卵焼き、オムライス…… ですかね」
「卵料理ばかりですね……」
 シェイドもまたその声を聞き、二の句が継げなかった。
「悪いな。 コイツら、まともな料理は作れねぇから」
 アルトはしょげ返っていた。
 まるで青菜に塩のように。
「いえっ、別に俺はそんなつもりじゃ」
「顔に出てるぞ」
 アルトは不意をついて言う。
 シェイドは焦って顔を触ったりした。
 やはりか、とばかりにアルトが大笑いをする。
「何か、俺たちが入るスペースはなさそうだね」
「そうですね…… でも、何か兄弟みたいでいいですね」
 隅で2人はシェイドとアルトの会話を聞いていた。
 そんな中、料理がテーブルに並らべられていく。
「どうやら、出来たみたいだな」
 アルトが振り返って、テーブルのほうを見た。
 そして、アルトが席につき、他の人も座る。
 席を囲うと、みんな手を合わせた。
「それじゃ、卵に感謝して。 いただこうか」
 一斉にスプーン持ち、食べ始めた。
 その途中、アルトがシェイドに話しかける。
「シェイド、強くなっただろ? 後で勝負せんか?」
「いいですよ! やりましょう」
 シェイドは嬉しそうな顔をし、拳を握って前に出した。
「いい返事だ。 じゃ、さっさと食うぞ!」
 アルトもその返事に喜び勇んでいた。
 そして、2人は皿を手に持ち、飯を口へ掛けこんでいく。
 周りは、スプーンは静止画状態になっていた。
 嵐のように平らげると、そのまま部屋を出ていく。
 彼らが去った後、再び動き出した。
「だ、旦那。 戦いもすごいが、食う方も恐ろしいな……」
「かしらもすげ――。 俺たちがまだ半分もいってねぇってのに」
 あまりの速さに、いなくなった後も驚いていた。
 再び、ゆっくりと食べることにした。
「シェイド! 準備はいいか?」
 出て行った2人は中庭にいる。
 下は芝が生えているだけ。 周りを囲むは建物の壁。
 空は既に暗く、風も少しだけ肌寒い程度。
 風に揺られ、上から木枯らしが降ってきたりする。
「えぇ、いつでも」
 シェイドもそういうと構えて向かい合う。
 アルトは腕を何周か回すと、背中から剣を抜く。
 剣は大きく、刃は月明かりで輝く。
 そして2人は走り出す。 剣と剣がクロスして固まる。
 戦闘の鐘が辺り一面に鳴り響いた。
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