巫女と道連れ


 カーテンから薄ら明かりが差し込む。 シェイドは動き回っていた。
 時計の針は6時を指している。 ガストはまだベッドの上にいた。
 シェイドは勢いよくカーテンを開ける。 眩しい日の光が差し込んだ。
 光がガストの顔にも当たり、一瞬反応する。 しかし、眠ってしまった。
 頭にきたシェイドはベッドの布端を引っ張る。 ガストは転がっていった。
 頭から落下し、鈍い音がした。 その衝撃で、ようやく目覚めた。
 頭を抑えながら、立ち上がる。 薄めでシェイドのほうを見た。
「旦那、おはよう……」
 あくびをして、目をこすりながら言う。
 シェイドはその態度に睨みつけて言った。
「寝ぼけてるな、顔洗え。 ついでに、その寝癖も直せ」
 なかなか起きない上、その態度にシェイドは腹が立っている。
 しばらくして、ガストも支度を終えた。
「忘れ物はないな?」
 念には念を入れるシェイド。 
 ガストもようやく眠気がはれ、申し訳なさそうな顔でうなずいた。
 それを確認すると、シェイドはふすまを開ける。 
 2人は廊下を抜け、玄関口へと向かった。
 そこで、バッたり昨夜の女の子に会う。
「あ、昨夜の……」
 女の子が先に声をかけてきた。
「昨日は旦那が急かすもんで…… 悪かったね」
「いえ……」
「そういえば、なんて名前なんだ? ちなみに俺はガストさ」
「申し送れました。 わたしはセレナです」
 向かい合っていると、シェイドが徐々にスライドして離れていた。
「ちょっと、どこ行くの旦那。 旦那も名乗ってよ」
「……お、俺はシェイド」
 照れくさそうにしているシェイド。 
 やはり彼女のことが気になっているようだった。
「シェイド様……? どこかお加減でも……?」
 首をかしげ、心配そうな目でシェイドを見る。
「いや…… 別に」
 目をそらしながら答えた。
 先ほどから、胸が苦しくなっている。
「旦那は病なんだよ。 君にね……」
 ガストが話している途中で、シェイドが拳を飛ばした。
 それは音速を超えるか如くの速さだった。
 ガストの顔は梅干のように潰れてしまった。
「……何でもない! ちょっとした疲労だ」
「それなら、よかったです!」
 シェイドだけを見て、セレナはニッコリ微笑む。
 その笑顔にシェイドの心は再び射抜かれた。
 若干、顔が赤くなっていた。
「ところで、シェイド様たちは、どこへ向かわれるのですか?」
 セレナがシェイドに尋ねる。
 少し期待を込めたような顔だった。
「そういや、俺も聞いてないな」
 ガストもシェイドのほうを向いて聞く。
 顔はいつの間にか元に戻っていた。
「ルスキニアというところだ」
 シェイドは真顔に戻り、口を開いて言う。
「奇遇ですね。 わたしも丁度、向かうところで」
「えっ、セレナちゃんも! それじゃ俺たちと一緒に……」
 ガストは喜び飛散で誘ってしまう。
 シェイドのほうを見て、期待を込めて返答を待った。
「いいんですか!?」
 セレナの喜び顔いや全てのしぐさが魅了する。
 鬼も屈するほど殺傷力を持っていた。
「……別に構わん」
 その時、シェイドは表情に出さないものの、
 彼の心臓は激しく打たれている。
 共にするということが、よほど嬉しかったのだろう。
 話が終わると、シェイドが玄関の扉を開け、3人は外へと出た。
 その時、6人の荒くれ男が前の木陰から現れる。
 昨夜、絡んでいた2人の男もそこにいた。
 どの男も筋肉粒々で、右手に大きな斧を持っている。
 服は半そでで腕まくり、履物は半ズボン。 その上に腹巻があった。
「昨日は、俺の仲間が世話になったみたいでぇ?」
 不気味な笑みを浮かべながらシェイドたちを見る。
 よく見ると、顔に複数の小さな傷跡があった。
「アンタら、何のようだ」
 シェイドは腰に手を当て、いつでも剣を抜ける準備をする。
「お前らには仲間の借りを返させてもらうぜぇ」
 真ん中に立つ男が腕を鳴らした。
 そして、6人はシェイドのもとへと近づいてくる。
 シェイドもやる気満々で近づいていく。
「わかった、死んでも保障はせん」
 そして、男たちと戦いを始めようとした。
 その時、どこからともなく声がする。
「ちょっと待ちな!」
 それと共に、目の前にナイフが飛んできた。
 それらは2本で、地面に刺さった。
 木陰から男が幽霊のように現れた。
「か、かしら!?」
 その男を見て、男たちが驚いて叫んだ。
 シェイドもその男を見たとき驚いた。
「しばらくだな、シェイド」
「かしらは、コイツ。 いや、この人と知り合いで!?」
 そのことを知り、泡を食ってしまった。
「そうだ。 だから、そこをどけ」
「アイアイさ!」
 6人の男は3人ずつに分かれて並び、道をあけた。
 その間をアルトがくぐりシェイドに向かってくる。
 シェイドもまたアルトに駆け寄った。
「アルト先輩! かしらって……」
「あ、コイツらはオイの子分だ」
 シェイドは一瞬驚いたが、ありえないことはない。
 アルトは彼の目標であるほど強かったからだ。
「それは置いといて、お前の喧嘩っ早さは変わらんな」
 呆れた顔して言った。
「これはアルト先輩譲りですよ」
「そっか、オイの影響をモロに受けてるんだな」
 若干、反応が遅れて返す。
 図星で否定できないからだった。
「おっと…… てめぇのお仲間さんには謝らんとな」
 シェイドへの目線からガストたちのほうを向く。
「い、いえ…… 俺たちは別に」
 ガストは引き気味に答えた。
「特にお嬢さんには迷惑をかけたはずなので。 すまん!」
 居合わせてなかったアルトが謝る。
 ただ、なぜ確定できるのか、3人にはわかりかねた。
「コイツら…… 特にこの2人はやたら美女好きだから迷惑を」
「顔を上げてください。 気にしていないですから!」
 セレナはアルトに近づいて、微笑んで言った。
 アルトが顔を上げると、そこには光り輝く天使の笑顔。 
 彼もまた、彼女のとりことなった。
「そ、そ、れならよかった。 それでは共に参りましょうか」
 人が変わったような態度の変化。
 彼は彼女の手をつかむと、そのまま歩き出す。
「あの人も、モロに食らったな」
 ガストは小声でつぶやいた。
 彼女の笑顔は何でも射抜く力を持つようだ。
「てめぇたちも早く来い」
 アルトは振り返って呼ぶ。
 シェイドはジェラシーを感じながらついていく。
 後の人も、アルトを追っていった。
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