ガストが言う宿。 橋から歩いて数分の位置にあった。
 建物は古くからあるようで、壁が黄ばんでいる。
 緩やかな傾斜の屋根。 わらで出来ていた。
 扉は開いている。 暖簾にはミレイヤと書かれていた。
 2人はそこから入り、玄関のところに立つ。
 桃色のじゅうたんが敷かれていて、植木鉢の入った植物がある。
 左前に受付がある。 そこには女性の宿員が座っていた。
 2人は玄関の段差を上がっていく。 そして受付に行った。
 すると、宿員から優しく声をかけてきた。
「こんばんは、何かご用ですか?」 
「部屋は空いているか?」
「空いていますが」
「わかった…… それで、いくらだ?」
「50オーロです。温泉付きで」
 シェイドはその言葉に顔を綻ばす。 
 支払うため、ズボンのポケットに手を入れる。
 しかし、なかった。 必死に自分の体中を探り出す。
 段々と、顔色が青くなっていった。
 ガストはその行動を見て汲み取る。
 ズボンのポケットから金を取り出した。
 そして、受付の人に差し出した。
「ありがとうございました。 お部屋は一番奥になります」
 部屋に続く廊下が、玄関から見て正面にある。
 2人は、そこから自分たちの部屋に向かう。
 その途中、シェイドが立ち止まって言う。
「悪いな……」
「気にせんでいいよ、旦那!」 ガストは笑って返す。
 2人は廊下を真っ直ぐ進んでいった。 そして、奥につく。
 部屋の入口に、ふすまがある。 それを、横にスライドして開けた。
 そこは7畳程度。 床はじゅうたんが敷き詰められている。
 窓からは中庭が見える。 しかし、暗いので今はうっすらしか見えない。
 中央にテーブルと椅子が用意され、壁際にベッドがある。
 ベッドのそばには時計が置かれていた。 今も動いている。
 何はともあれ、2人は椅子に腰掛けた。
 しかし、シェイドが足を揺らして、落ち着かない様子。
 ガストはすぐさま手を掴んで部屋を出る。
 2人は、廊下を戻り、受付の部屋。 そこから左に行くと再び廊下。
 そこを直行していく。 前に、男湯と女湯の分かれ道があった。
 もちろん、男湯へ入っていく。
 そこから、30分ほど経過した。
「ふはぁ…… やっぱ、温泉はいいものだな」
 シェイドは満足そうな顔を浮かべて言った。
 体も心もリフレッシュできたところで戻ろうとした。
「やめてください……」
 目の前の廊下で、女の子が男たちに絡まれている。
 天使のような顔立ちに、つぶらな瞳。 
 そして、甘く蕩けそうな唇。 稀に見ぬ、美女だ。
 ガストは一瞬、見とれて意識を失いそうになった。
「旦那、どうしようか?」 ガストは振り返って言う。
 だが、そこにシェイドの姿はなかった。
 再び彼女のほうを見る。 既に片がついていた。
 ほんの一瞬で、片付けた旦那に唖然とした。
「怪我はないか?」 シェイドは彼女の肩を静かに掴む。
「あ…… あの、助けていただき……」
「いや、大したことはない。 俺たちは戻るから」
 シェイドは素っ気無く対応する。
 ガストの腕を引っ張り、その場を去った。
 受付の辺りについた頃に、ガストが口を開く。
「あの子、可愛かったよなぁ……」
 後ろを向いて、未練たらしく言った。
「旦那もそう思うだろ?」
 シェイドに共感を求める。
 しかし、シェイドは聞いていなかった。
「旦那?」
「あ…… 何か言ったか?」
 ぼんやりから覚め、ガストのほうをみる。
 ガストはその様子から、何かを感じ取った。
「もしかして、旦那も気になってるの?」
「気になる、何がだ?」 
 その時、シェイドは少し動揺を見せた。 頬も少し赤い。
「あの子のことだよ。 やっぱ旦……」
「明日は6時。 早く戻って寝るぞ」
 誤魔化して、1人走っていく。 ガストも急いでついていった。
 2人は部屋に戻ると、すぐさま電気を消して就寝する。
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