シェイドは、ルスキニアのある北東を目指している。
 それから、2時間ほど経った。 そこで川に差し掛かる。 
 水が透き通っており、緩やかに流れていた。
 川の底までは深い。 向こうまでは遠くて、泳いで渡れない。
 何か無いかと、川の続く所を見てみる。 橋が近くに見えた。
 そこへ急ぎ足で、目の前まで歩いていく。 
 橋は緩いアーチを描き、向こう岸までしっかりと固定されている。
 欄干があり、その手前には、ミストラルと刻まれていた。
「ここがミストラル大橋か」
 地図と合わせて確認し、ざっと辺りを見渡す。
 それを終えると、橋のほうに向きを変える。
 橋の上の中央部では、男が立ち往生をしている。
 男は全体的に蒼系の衣装で、手に籠手をはめている。
 ターバンのようなものをかぶり、鋭い目でこちらを睨む。
 気にも止めず、シェイドはそのまま素通りしようとする。
 しかし、その男は己の持つ籠手でシェイドに斬りかかってくる。
 シェイドは欄干に立ち跳ね上がって体勢を作る。
 ちなみに、欄干は人の片足が乗れるぐらいの幅。
 一度、男も後ろに下がり、腕を下ろして立つ。
「俺はガスト。 風のガストとも呼ばれているさ」
 まずは名乗りに出る。 真剣勝負には欠かせない。
 シェイドも一応、名乗る。 周りには誰もいない。
 空気が肌寒い、真剣な眼差しだった。
「ここを通りたいなら、俺を倒していけ」
 ガストは体を低くし、再びシェイドの下へ走って斬る。
 シェイドは欄干を走り抜ける。 振り返りガストもシェイドを追う。
 しかし、シェイドは2つの欄干を行き来し攪乱する。
 ガストはその動きについていくので精一杯だった。
 少し気を緩めた瞬間、シェイドが姿が見えなくなる。
 上空からガストの頭上へ落下。 気付いたガストはそれを受け止める。
 しかし、シェイドが地に着いた瞬間、剣の背で、ガストの腕を突き上げる。
 そしてガストの腹に目掛け、拳をぶつける。
 ガストはうなった。 シェイドはそれ以上の攻撃はしなかった。
「……俺の負けか」 
 ガストは潔く負けを認める。
 まだ痛む腹を押さえながら、シェイドに近づいた。
「俺を弟子にしてくれ。 頼む!」
 頭を下げて言う。 彼の心にも何かがあった。
 必死にシェイドに頼み込んだ。
「ダチでいいなら、連れて行ってやるよ」
 シェイドはガストの肩を叩きながら、そう答える。
 その顔は、まるで太陽のような笑顔だった。
「カッコよすぎるぜ……」
 ガストはその言葉に感動した。
 滝のような涙が、目から出てきた。
「ちょっと、大げさすぎないか?」
 シェイドは唖然とする。
 しかし、ガストはお構い無しに感動し続ける。
 しばらく、泣き叫んでいた。
 時間が経ち、ようやくガストは我に返った。
「シェイドの旦那! 例え地の果てでも、お供しますぜ」
「こちらこそ、よろしくな」
 シェイドは、初めての旅仲間に胸を躍らせた。
 仲間になったガストと共に橋を渡る。
 途中、立ち止まりガストのほうを向く。
「そういえば、疲れた。 どこか休める所は無いか?」
「この先に、ミレイヤの宿があるぜ?」 とガストは言う。
 シェイドは異議なし、とばかりにうなずく。
 そして、2人はその宿へ向かうことにした。
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