「えっと…… 裏側ってどこにあるのかな……」
 行くと言ったのはいいが、向かうだけで疲れてしまった。
「もう少しのはずだ!頑張るのだ、少年!」
 ソウロウは元気で先陣を歩いている。
 そうこう言っているうちに、洞穴の前まで来ていた。
「ここだ!少年!! この先から、ロマンの臭いがプンプンするぞ!」
「わあ…… 何か、すごい。 そして、何か、不気味」
 コッシュは洞穴を目の前にして驚いた。
 未知の世界を見るかのようだった。
「さあ、少年! 探るとしよう!」
 ソウロウは腕を高く振り上げ、上機嫌に洞窟の中へと進んでいく。
 コッシュはうなずき、眼をギョロつかせながら、彼の後をついていく。
 中に入っていくと、後ろから水滴の落ちる音が聞こえる。
 その音に、コッシュは軽く驚きの声をあげた。
「少年よ! この程度で腰を抜かしていては、先へ行けないぞ!」
「いや…… ちょっと後ろが気になっただけだよ」
 コッシュはそういいながらも、顔色が変わった。
 不気味で鍾乳洞のような道は淡々と奥に続いている。
 彼らは気を取り直し、進んでいく。
 先に進んでいくと、2つの分岐地点に差し掛かった。
「よし、右に進むとしよう!」
「え? 何で?」
 直感的に方角を決めたソウロウにコッシュは疑問を抱く。
「少年よ! こういう分かりづらい時は、右に進むのがいいのだ!」
「理由になってないよ……」
 とは言っても、コッシュ自身にも意見があるわけではない。
「細かい事は気にするな! 少年!」
 そこはソウロウの判断に任せ、右の道を進んだ。
 しばらく歩いていくと、その先から物音がする。
 ソウロウはその音を察知し、立ち止まった。
 それに合わせ、コッシュもソウロウの後ろで立ち止まる。
「少年よ! スーパーダッシュで戻るぞ!」
 そう言うと、ソウロウは先立って逆走した。
 前方から何かが転がるような音がする。
 時が経つにつれ、それは大きくなっていった。
 目の前から岩が近づいていたのだ。 しかも、半端ない大きさ。
「わあああ…… ギャ――!」
 コッシュは、ようやく気付いて慌てて後退する。
 振り返って全速力で走り続ける。 岩は直ぐそばだ。
 もう、おしまいだと思って立ち止まってしまった。
 だが、岩は止まった。分岐点に差し掛かったところが狭まっていたためだった。
「危機一髪だったな! 少年!!」
 ソウロウは笑いながら言う。
 コッシュはムッとした顔をして言い返す。
「『危機一髪だったな、少年!』じゃないよ! オッさ……」
 と言いかけた所で言い直した。
「お兄さんのせいで、死に掛けたじゃないか!」
 間一髪、抜けたからよかったものの、
 下手すればコッシュの命に係わっていた。
「探検に危険は付き物だ! それに、私が居なければ少年は岩の下敷きだっただろう!」
「まあ…… そりゃそうだけどさ……」
「ならば、問題あるまい! 左に行くとしよう!」
 ソウロウに上手い口車に、コッシュは丸め込まれた。
 岩で右側が通れなくなってしまったので、今度は左に行くことになった。
「お兄さん……」
 コッシュは不安そうに尋ねた。
「大丈夫だ、少年! こっちは安全のはずだ!」
「……その、言い切れる根拠は?」
「二つしかないから、左が当たりで右が外れだろう!」
 コッシュはさらに不安になった。
 だが、進む道はこちらしかない。なので、言う通りに進む事にした。
 しばらく、道沿いに進む一本道が続き、途中で部屋に差し掛かる。
「うん…… 部屋に来たけど、何にも無いね」
 コッシュはそこを素通りしようとした。
 だが、慌ててソウロウが声を上げる。
「気をつけろ! ワナが仕掛けられているかもしれないぞ!!」
「……ワナ?」
 ソウロウが言っているそばから、コッシュは何かを踏んでしまった。
 スイッチのようなもの、何か嫌な予感がした。
 すると、前方から先ほどの半分位の岩が無数に現われた。
 それらは、こちらに向かって転がってくる。
「って、えっ!? また岩!?」
 コッシュは動揺して動けなかった。
 先ほどのトラウマもあり、ショックが大きい。
「屈め! 少年!!」
 ソウロウは張り上げ、コッシュはその場で屈んだ。
 その後、ソウロウは武道家のような構えをする。
「はあぁぁ――…… インコングライティ!!」
 そのまま、腕を伸ばして一気に殴りかかる。
 目に見えぬ速さで、岩に攻撃した。
「ええ……!?」
 それを見た、コッシュは驚いた。
 ソウロウが、一瞬のうちにあの大量の岩を消してしまったからだ。
「……どうした、少年?」
「え、いや…… すごいなあ、と思って……」
「そうか! 少年が無事でよかったぞ!」
 コッシュは、ソウロウが意外にすごい人なのかと感じた。
 しかし、1つだけ疑問が芽生えた。
「ところで、何で前のデカ岩の時にやらなかったの?」
「これを使うと、すごく体力を使う、だから緊急の時しか使わないのだ!」
 その後、突如、ソウロウの顔色が悪くなっていた。
「そうなんだ……」
 そういいつつも、あの時だって危なかったと思うコッシュ。
「そうだ、少年! リュックに入ってる、おにぎりを取ってくれ!」
「おにぎりなんて持ってきて無いじゃん…… 生肉だけだよ」
 コッシュはこんな時でもボケてるソウロウに呆れた。
「あ? そうだったか。 じゃあ、その肉をくれ!」
 ソウロウがそういうと、コッシュはリュックを降ろした。
 そして、中から肉を取り出し、それを渡す。
「ほっほ…… やっぱり肉は美味いな!」
 ソウロウは美味しそうに食べていた。
 すると、顔色がどんどん良くなっていく。
 立ち上がって、腕やら体やら振り回せるほど元気になった。
「肉を食べて、元気になるなんて単純な人だね……」
 コッシュはソウロウの異常な回復力に関心した。
「さあ、気合を入れていくぞ! 少年!!」
「あっ、待ってよ!」
 コッシュとソウロウは部屋を抜け、さらに進んだ。
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