「はっは! この私に恐れをなしで何も来なくなったのだな!」
 ソウロウは鷹を括りながら進んでいく。
 先ほどの部屋から、いくら進んでも通路だけ。
 敵や岩など出てくる様子も無く、ひたすら進んでいった。
「まあ、出てこない分にはいいけどね」
 コッシュも、何にも無いことにほっとしていた。
 しばらくして、大きめな部屋に辿り着く。
 中央には、指輪らしき物が置かれていた。
 その周りを深い堀が覆っている。
「あっ! 何か、指輪があるよ!」
 コッシュは指輪の存在に気が付いた。
 その言葉に、ソウロウは目の色が変わった。
「……少年! 来たぞ! レジェンドルームへ!!」
 ソウロウは駈けずり、振り返ってコッシュに呼びかける。
「えっ……? レジェントルームって?」
 それについて、コッシュは戸惑いながら聞く。
「レジェントルームとはな…… と、そのような話をしてる場合ではなさそうだな……」
 ソウロウは言いかけたところで、険しい顔になり身構える。
 堀から突如、水が噴き出てきた。
 周囲は水の壁のように覆われた。
「……ザコがユビワのニオイをカギツケてキタか……」
 噴水の中からモンスターが現れた。
 竜のような顔と鋭い爪が、こちらを睨む。
「……何者?」
「あやつは…… 洞穴に住む、番人だろう!」
「……タカラはワタサヌ。 キサマラはココでシネ……!」
 モンスターはコチラを見て威嚇している。
「どうやら、戦闘は避けられんようだな……」
「……戦闘って…… 僕は戦いをしたことないよ……」
 コッシュはまだ、戦闘というものを経験をしたことはなかった。
 というよりも、一般市民の子供が戦いをする機会があるわけが無い。
「少年! 大丈夫だ。 巻き込んだのは私! 少年は援護をしてくれればいい!」
「援護って…… 何をすればいいの……?」
「リュックの中に虫眼鏡が入っていただろう? ソレを使うと敵の弱点が見えるのだ!」
「そんな能力もあるん……」
 そう話し合っているうちに、モンスターが爪で切り裂きに来る。
 コッシュとソウロウは、それをひらりとかわした。
「……ナニをゴチャゴチャとイッテイルのだ!」
 モンスターは長話にイラだっている様子。
「……ただし、敵によっては中々見えないときもある。 少年! 頼むぞ……!」
「うん、わかったよ!」
 ソウロウはモンスターの周りを走り出した。
 モンスターはソウロウを目で追う。
「こっちだこっちだ! アホモンスター!!」
 そして、ソウロウは挑発を仕掛けた。
「オノレ…… ザコが…… ホエズらカカセてクレル!」
 モンスターはさらに怒り狂う。
 全てはソウロウの思惑通りに進んだ。
 コッシュはその隙に、自分のリュックから虫眼鏡を取りだす。
 それを手に持ち、モンスターの周りをうろついて弱点を探し出した。
「……えっと、弱点弱点……」
 しかし、見つからなかった。
 さらに、気合を入れて探し回る。
「……どこだよ…… オッさんが戦っているというのに……」
 中々見つからないのでコッシュは焦りを感じてきた。
 そうこうしているうちに、ソウロウが吹き飛ばされた。
「……ムシケラフゼイがワレにイドむナドトはワラワセル!」
 モンスターはそう言うとソウロウに追撃を仕掛けてきた。
 しかし、ソウロウは危機一髪で攻撃をかわした。
「オッさんが危ないのに…… 僕は……」
 コッシュはだんだんと暗くなっていく。
 半分諦めかけていた、その時だった……
「……見えた!! オッ…… 兄さん! 腹部の所だよ!!」
 コッシュはすぐさまソウロウにモンスターの弱点を伝えた。
 ソウロウは一瞬振り返って言う。
「……そうか、よくやったぞ。少年!」
 ソウロウは腹部を目掛けて飛び上がる。
「……ムシケラが……!」
 モンスターは腕でソウロウを弾き飛ばそうとした。
 ソウロウはそれをひらりとかわす。
「……グライティアスク――!!」
 そして、そう叫びながら弱点の場所へキツい一撃を決めた。
「……ググ…… グワァァ――!!」
 モンスターはその場で倒れ、そのまま溶けて水になった。
「オッさんナイスだよ!」
 コッシュは興奮してソウロウの元へ駆け寄る。
「バッカもん!! オッさんでは無い、お兄さんだ!」
 ソウロウのパンチがまた飛んできた。
 コッシュは軽く吹き飛んだ。
「痛い…… せっかく褒めたのに……」
 コッシュは泣きながら笑った。
「そういえば…… 戦闘前に言ってたことなんだけど……」
 先ほど言っていたことを聞いてみた。
「ああ…… それのことだが……」
 ソウロウは話を始めようとした。
「まずは肉をくれ。話はそれからだ!」
 いつもの展開になり、ソウロウは再びコッシュに肉を要求。
 コッシュもすぐさまリュックから肉を取り出す。
「はい、生肉」
「おう、美味いぞ! それで、話を戻すぞ!」
 ソウロウは改めて話を始めた。
「レジェントルームとは、伝説の指輪がある場所だ」
「うん、それでその指輪って……?」
「それは、とても美しいという……」
「そうなんだ…… で、それがここなの?」
「そうだと思うが……」
 ソウロウは少し自信なさげに言う。
 コッシュは一応、話の整理が出来た。
「でも、何で、その指輪が必要だったの?」
「私はある人に約束をしているのだ……」
「約束……?」
「ああ…… それで、そのある人のために指輪を持ち帰る…… そう、誓った……」
 ソウロウはグッと拳を握り締めて言う。
「……伝説の物をって…… 大切な人ってことなんだね……」
 約束の話を聞いて、コッシュは共感し涙ぐんだ。
「……悪かったな、少年。私の身勝手で、こんな危険に巻きこんでしまって……」
 ソウロウはコッシュの肩に手を当て、そう言った。
「いいよ。結構楽しかったし……!」
「……感謝する!」
「さあ、帰ろう! その大切な人に渡さないといけないんでしょ?」
「おう!」
 コッシュとソウロウは台座に合った指輪をとった。
 そして、来た道を戻っていった。
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