「ここか!? 少年!」
 コッシュが立ち止まったのでソウロウが尋ねた。
「そうだよ!」
 コッシュは間違いないという顔で答える。
 ここまで来る間に、民家の明かりも殆ど消えている。
「よし、入るか!」
 ソウロウがそういうと、2人は宿屋の中へと入っていった。
 中はどこにもある平凡な和造りだった。
 屏風や襖で仕切っており、奥に続く廊下がある。
「立派な宿屋だな!」
 ソウロウは満足そうな顔をしていた。
「そうなの? ふーん……」
 コッシュは目新しそうには見えず、ソウロウの反応に適当に答えた。
 その後、しばらくしてから宿屋の従業員がやってきた。
「いらっしゃいませ〜!」
 従業員は愛想良く挨拶をしてきた。
「お客様…… 御用は何でしょうか?」
「おう、予約はしてないものだが…… 部屋は空いているか!?」
 ソウロウは従業員に尋ねる。
 その時、従業員は言いにくげに言葉を返す。
「えっと…… 今日は丁度、予約を含め満員なんですが……」
「そうなのか…… ならばしかたがない。 他をあたるぞ! 少年!」
 満員と聞いて、ソウロウは回れ右をする。
 それから、そのままソウロウは宿を立ち去ろうとした。
「またのお越しをお待ちしております!」
 従業員はそう言うと、宿の奥へと帰っていった。
 コッシュもソウロウの後を追って出ようとした。
 その時、一人の客が通り過ぎてこちらに気が付いた。
「あ……! コッシュじゃないの」
 コッシュにとって聞き覚えのある声が聞こえる。
 コッシュはその声に反応して、そちらを向く。
「何でここにいるの?」
 その客はコッシュに尋ねてきた。
「あ…… メル。 メルこそ何でここにいるのさ?」
 その者、それは幼馴染のメルだった。
 ソウロウが彼女について聞いてきた。
「ん? 少年! そのネコむすめと知り合いか?」
「あ、うん。一応」
「誰よ、このオッさん!? ってか、ネコむすめとか失礼するわ!」
 メルは変な呼び名で言われて怒る。
 だが、メルもソウロウに対して禁句を言ってしまった。
「オッさんではな――い!」
 お決まりのソウロウのパンチがメルに飛ぶ。
 しかし、とっさにメルもパンチを繰り出した。
 拳同心がぶつかり合い、激しく火花が散る。
 2人は、互角に相手をしていた。
「やるな……! ネコむすめ!」
「オッさんこそ…… やるわね……!」
 2人は互いを認め合っていた。
 その姿を見ていたコッシュは開いた口が塞がらない。
「うわっ、怖! メルとオッさんが互角だって……!」
 コッシュは唖然としていた。
 その瞬間、ソウロウからの逆手パンチが飛んできた!
「オッさんではないと、何度も言わせるな!」 
 ソウロウのパンチが顔面ヒットした!
 コッシュは床を摩るように吹き飛ぶ。
「イッタ!! もう…… 何回、殴られたんだろう……」
 コッシュは額を押さえながら立ち上がる。
 ソウロウからの今回の一撃はかなり強烈だった。
「と、自己紹介をしていなかったな!」
「あ、そうだったね……」
 一同は我に返ると、順番に自己紹介を始める。
「わたし、メルっていいます」
「私はソウロウだ! よろしく頼むぞ、ネコむす…… いや、レディのほうがいいか!?」
「……メルでいいです」
 メルはソウロウの中途半端なキザの言葉に呆れた。
「で…… 部屋が無いんだって……?」
 メルは2人の話を少し聞いていた。
「うん…… そうなんだよ……」
 コッシュは困った顔をしながら言う。
 メルは悩み、少ししてから答えた。
「じゃあさ…… わたしの部屋にくればいいわ」
「えっ、いいの?」
 突然の返答に、コッシュは笑みを浮かべる。
「勿論…… 追加料金が必要だけど、ここに来たんだからお金は持ってるわよね?」
「金のことなら心配は無い! 私が持っているからな!」
 その会話に割り込むソウロウ。
 お金の入った袋をメルに見せ付ける。
「そう? それならいいわね。 じゃ、さっさと払ってわたしの部屋に行くわよ」
 2人はメルの部屋に泊まることになった。
 そうと決まった後、ソウロウは従業員を呼ぶ。
 すると、先ほど居た従業員が再びやってきた。
「えっと…… 何でしょうか?」
「その子の部屋の追加ってことで金を払うから、私らの分も用意してくれ」
「そうですか〜。 では、料金お二人様で2万になります!」
「お… 結構安いのではないか! 一人1万とは助かるな。 ほい、2万だ!」
 ソウロウは従業員に代金を渡した。
「確かに受け取りました! では、ごゆっくりどうぞ!」
 従業員は代金を受け取ると、また中へと帰っていった。
「払い終わったの? じゃ、わたしの部屋に出発よ!」
「……ありがとう、メル!」
 2人はメルの後をついていく。
 廊下を通って、進んでいき直ぐに辿り着いた。
「ここよ、わたしの部屋は」
 メルが立ち止まったところで、その部屋を指す。
 3人はメルの部屋の前についたようだ。
「さ、入りましょ!」
 メルはそういうと、扉を開ける。
 その後、2人を部屋に招き入れた。
「うむ! 立派な部屋だ!」
「そう……? 普通だと思うけど……」
 メルもソウロウの反応に戸惑っていた。
 だが、気にせず畳に腰掛けた。
 コッシュとソウロウもテーブルを挟み、向かい合うように座った。
「ふぅ…… と、そうそう…… さっき聞きそびれたことがあったんだっけ……!」
「あ…… そうね。 それで、話せば長くなるんだけど……」
 メルは話を始めた。
「わたしは、テレビを見ていたの。 そしたら、ニュースがやっていて……」
「あ、僕も見た! あの時は僕、どうでもよかったんだよ」
 コッシュは、その頃はこんなことになるとは思っても無かった。
「そうなの…… じゃ、やっぱ、先にコッシュから話しなさいよ!」
「えっ…… 強引だねメルは。 しょうがない、僕から話すね……」
 コッシュは今まであったことをメルに話した。
 メルはうなづきながら聞いている。
「ふーん、そんなことがあったんだ……」
「大変だったんだよ…… ま、偽指輪が手に入ったから金にはなったんだけどね」
「それで、その指輪のお金で来たってことね」
「そういうこと…… で、メルは?」
「あ…… わたしの続きね……」
 メルはコッシュの話が終わると改めて続きを話し始めた。
「ニュースを見て…… 気になったのよ」
「何が気になったの?」
「何か、宝がありそうじゃない? だから、その後、急いで図書館に行ったの」
「そうなんだ…… それで?」
 コッシュはメルの機転に少し驚いた。
「図書館で調べていて…… そしたら、ある本に伝説の指輪のことが少し書かれていたわ」
「え…… さっき僕が話したやつ?」
「それは気になるな! その話し聞かせてくれ!」
 ソウロウは目の色を変えた。
「あ… うん。 えっと、わたしの読んだことによると……」

――吾輩はシックル
   この本を読むものは、私と同じくロマンを追う物であろう……
   未知のダンジョンを求め、その最多の奥に指輪を見た。
   吾輩はその指輪を見たが、眩しさに目を当てられなかった。
   透き通るような真珠の指輪……
   指輪を求むものこそが手に入れるべきであろう……
   吾輩は指輪には興味が無いのである。
   ロマンを追い求めるだけの男……  
   探検家達よ! ロマンの先の幸せを掴み取れ……

「確か、そんなことが書かれていたと思ったわ」
 メルは長々と話し、そして終えた。
「そうか…… シックルという男が最初に見つけたのか……」
 ソウロウはその話を聞いて、初めて伝説の男の名を知った。
「わたしはそれを見て、あの洞穴に向ったのよ……」
「そうなんだ?」
「だけど、疲れちゃって戻ってきたの」
 コッシュは、メルが行った理由は理解した。
 しかし、それは宿屋にいる理由にはならない。
「何で宿屋にいたの?」
「指輪を手に入れるまで引き返せないと思ったからよ」
 メルの意地のようなものがメルを家に返さなかったようだ。
「だけど、さっきのコッシュの話しの中のオッさんの話しを聞いたら、協力したくなったわ!」
 本当はコッシュと一緒にいたい、だけどそうも言えない。
 そこで、オッさんの話と重ねて言った。
「メルもいっしょにくるの?」
「何? 何か不服?」
 メルの目つきが怖かった。
「いや、別に……」
 コッシュは特に問題はないし、第一メルの表情が怖かったから返せなかった。
「私に協力してくれるのか…… メル!」
「えぇ…… 協力するわ!」
「よし、ならば明日に備え寝るとしよう!」
 ソウロウも感謝していた。
 そして、3人は睡眠に付くことにした。
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