「だいぶコツが分かってきたみたいじゃな」
「うん、こんな経験ここでしか味わえないしね」
「そうよ。 わたしたちの世界じゃ金属が実らないもの」
「後、3週間もすれば実るじゃろうて……」
 と、また街の警報が鳴り出す。
 そこに以前来た悪顔の王ビフラと右腕アエスがやってきた。
「おうおう、よく働いてんじゃねえか?」
 ビフラは偉そうに、前日と同じく乗馬してやってくる。
「今日は何の御用ですかな?」
 長老はビフラに近づいて聞く。
「あぁ。 今日は食料を徴収しようかと思ってな」
「な、何ですと! 我が村人を餓死させるつもりですか!?」
 前の身勝手さに加え、さらなる強奪に驚く長老。
 金銀が無くなったことで収入が減り、食料が着きかけている状況。
「そんなこんは知ったこっちゃねぇな」
 ビフラは鼻をホジりながらいう。
「ふざけんな! そんなの王じゃねぇ!」
 村人がビフラに批判した。
 もう1人の村人も近づいて言う。
「そうだそうだ! オラたちが……」
 言いかけた、その時だった。
 ビフラは腰の剣を抜き、村人を斬る。
 その村人はその場で倒れこんだ。
「俺様に口答えをするな」
 ビフラの目は尋常ではない。
「これは見せしめでっせ! だからもう、ビフラ様には逆らうんじゃないっせ!」
 右腕アエスもビフラの影で威張って言った。
「これが貴方たちのやりかたか……」
 長老は斬られた村人を前にして呆然とする。
 その村人の脈を診たが、何も感じられない。
「そうだ。 さぁ、それが分かったら食料を差し出せ」
 血の付いた剣を振るい、その剣を鞘に収める。
 長老は無言のまま食料を持って来るため戻った。
 だが、その時1人の少年がビフラの顔に跳び蹴りを食らわす。
 ビフラは馬から弾き跳び、鉄くずに頭をぶつける。
「お、おのれぇぇ! 誰だ、この俺様の美顔を蹴ったものは!!」
 ビフラはすぐに起き上がって、周りを見る。
「僕だ! お前ムカつくんだよ! このエビフライやろう、消えろ!」
 それはコッシュだった。
 コッシュはハラワタが煮えくり返るほどストレスが溜まっている。
「何だとこのガキ! 我がメタルジャーたちよ、やってしまえ!」
 ビフラは顔面蹴りを食らって発狂していた。
「ビフラ様のお顔を傷つけたものを生かしておくなっせ!」
 アエスは金属兵士メタルジャーを指示し、コッシュを囲む。
「コッシュ!」
 メルがコッシュに呼びかけた。
 しかし、コッシュはメルを止める。
「メルは来ちゃダメだ、僕が悪いんだから」
 そうこう言っているうちにメタルジャーが四方八方から槍を向けた。
 コッシュは絶体絶命になり死の覚悟を決める。
「あぁ、カワいい子とデートしたかったなぁ」
 槍がコッシュの側まで近づいた。
 その時、奇跡が起こる。
「ビビビ……」
 囲っていたメタルジャーたちが突然、爆発する。
 何者かが一瞬のうちに斬り壊したようだった。
「何者でっせ!?」
 アエスは慌てて周りを見る。
 そこには1人の剣士が立っていた。
「悪いね。喧嘩に割り込んで。 でも弱いものイジメはいけませんよ」
 剣士は爽やかに笑みを浮かべる。
「貴様、ビフラ様に楯突くきかっせ!?」
「楯突く? いや、拙者は別に群れで叩くのが気に入らなかっただけで」
 といいながらも、剣士は今にも殺すと宣告する目で見ていた。
「えぇ――い! ここは体制を立て直すぞ、アエス!」
「了解でっせ! お前の寿命が少し延びたこと、感謝するんでっせ!」
 2人と他のメタルジャーは尻尾を巻いて逃げていく。
 その姿を見届けて、剣士は剣を納めた。
「で……、君、とっても勇敢だね」
「あ。 助けてくれて、ありがとうです!」
 コッシュは危機を救ってくれた剣士に感謝する。
「拙者はフアン。 君と会うのは2度目かな?」
「あれ、どこかで会いましたっけ…… ってあの旅人さん!?」
 よく見ると、剣を買いにきた旅人に似ていた。
 しかし、コッシュはその人がここまで強いとは思わなかった。
「そうだよ。 拙者は君の目を見たとき何かを感じたんだ」
「……ソウロウのオッさんみたいだ」
 コッシュは小声で言う。
「ソウロウ……? 誰だか知らないけど、その人も見る目があるんだろうね」
「いや、あの人とフアンさんじゃ天と地ぐらい違うよ」
「そうね、わたしも一緒に旅したから言うけど、あの人は別者だわ」
 2人の間にメルが割り込んで話す。
「うん? その子は君のガールフレンドかい?」
 メルの姿に気づいて聞くフアン。
「あ、ただの幼馴染だよ。 名前はメルで、僕はコッシュ」
「そうか…… ところで、あのアクドイ連中と何があったんだ?」
「それが、アレが王で。 とんでもない取立てをしてたから」
 コッシュは先ほどのやりとりを説明した。
「それでか。 わかった。 拙者と君ら2人でヤツらの本拠を潰そう」
「え、そんなの無茶じゃ……」
 無謀なことを言うフアンに怖気ずくコッシュ。
「どちらにしても逆襲してくる。 ならばコチラから行くべきだと思うけどね」
「それもそうね、この人の言うとおりだわ」
 メルもやる気満々で、戦う気でいる。
「ま、メルは強いからいいけど、僕は……」
 コッシュのネガティブオーラが始まった。
 しかし、このパターンでは逃れられるわけでもなく。
「ビフラに顔面蹴りを食らわしたのに、何を言ってるの! 行くのよ!」
 メルが強引に連れて行くことになる。
「そうと決まれば…… と言いたいところだが、村の人に告げることがある」
 フアンは改まって言った。
「村の人も、ここを出る準備をしてくれ」
「そうじゃな…… あの王に逆う以上ココの村も危険じゃろうて」
 ビフラは怒りを肥やし、強兵士を連れて戻ってくるだろう。
 その前に、村人を非難させる必要がある。
「でも、どうやって……?」
 コッシュは首をかしげて聞く。
「ここの錫や鉄を持って行く。 休む時、それらでテントの拠点を作るんだ」
「なるほど! それで、途中村があったら補給すればいいってことか!」
「だから、村の人たちはあるだけの道具を纏めて、ここに集まってくれ」
 フアンはその場で指示を出す。 
 村人たちは自分の家へと戻っていた。
「それと…… 君らには装備が必要だ」
「そ、装備っていうと、やっぱり剣とか?」
 コッシュは慌てふためく。
「当然だよ。 メタルジャーってのを破壊するにはそれなりの武器が必要だ」
 フアンは先ほども見せたように剣で破壊した。
 それは、殴る蹴るだけでは破壊できない金属兵士だからだ。
「必ずしも剣でなくてもいい。 槍なり弓なり、ね……」
「そっかぁ、僕って何を使えばいいんだろ。 でも剣がカッコイイよね」
「わたしは…… 何を使えばいいかしら……」
「メルは剣じゃなくて拳でいいんじゃないの?」
 コッシュは冗談半分に言う。
「何言ってんのよ! このか弱い女の子に素手で戦わせる気!?」
 メルは怒ってコッシュの顔面を殴った。
 コッシュは数歩、吹き飛ぶ。
「彼女は…… いや、ここは統一して、とりあえず剣を持てばいい」
 今のパンチに唖然としたフアンだが、統一することにした。
 それが決まると、店の方角を向く。
 3人は途中にある階段を上り、そこに店の前に来た。
 フアンが店の扉を開け、3人は入る。
 1階フロアは間を仕切って、右側が宿屋だ。
「この上が武器屋と防具屋だよ」
 フアンがそういうと、壁梯子の階段を登り2階へと行く。
 壁を3つに仕切り、右2つに店があった。
 3人は回り込んで、丁度中央に位置する武器屋の前に立つ。
 手前のカウンターの向こうに店主がいた。
「へいっ、救世主! 何が欲しいんだい!」
 武器屋の主人は威勢よく声をかけてくる。
 コッシュは何を買うか迷っていた。
「剣だけど、君らは初心者だよね。 重い剣は無理だろうから……」
 フアンは少し間を空ける。
「鉄を薦める。 鉄は威力は低いが軽くて動きやすいから」
 そういうと、店主に鉄の剣を2本頼んだ。
 店主は隣にある箱から取り出して前に出す。
「2つで40レクトだ!」
「今持ち合わせは…… 100レクト。 ふぅ、足りたよ」
 フアンは自分のサイフを見て、ホッとした。
 サイフから取り出すと、フアンは店主に40レクトを渡す。
「毎度どうも! それじゃオラたちも出発の準備に取り掛かるだ!」
 そう言って彼らも荷物を纏めだした。
「君たちの剣だ。 受け取ってよ」
「うん、ありがとうね。 フアンさん!」
「この剣、大事にするわ!」
 2人は嬉しそうに剣を受け取り、フアンに感謝した。
「まぁ、大層なモノでもないけどね。 それじゃ、拙者たちはあっちで待とう」
 フアンがそう言うと、3人は集合場所へと向かう。
 そこで数時間待ち、全員の準備が整った。
「それでは…… 出発しよう!」
 そう言って、彼らの大移動が始まる。 
 村、いや国の平和のために立ち上がった集団。
 果たして、これから何が待ち受けているのだろうか。
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